半導体HBM用非導電フィルムの定義と市場概況
非導電性フィルム(NCF)は、狭いバンプピッチと狭いギャップを有する貫通シリコンビア(TSV)メモリを積層した3Dパッケージに適用される。HBMにおいて、NCFは熱と半導体高さを決定する中核的要素である。

QYResearchが最新発表した「半導体HBM用非導電フィルム―グローバル市場シェアとランキング、全体の売上と需要予測、2026~2032」市場調査報告書によると、世界半導体HBM用非導電フィルム市場規模は2024年の約9百万米ドルから2025年には12.2百万米ドルへ着実に成長し、予測期間中に20.3%の複合年間成長率(CAGR)で拡大を続け、2031年には37百万米ドルに達する見込みである。
半導体HBM用非導電フィルム市場規模(百万米ドル)、2024-2031年

上記データは、QYResearch報告書「半導体HBM用非導電フィルム―グローバル市場シェアとランキング、全体の売上と需要予測、2025~2031」に基づく
主な推進要因:
1. HBM技術の世代進化に伴う材料性能への極限要求:半導体HBM用非導電フィルムは、12層・16層といった高積層化、ならびに1280GB/s級の高帯域化へと進化するHBM技術に対応する中で、これまで以上に厳格な性能要求に直面している。日本の下流顧客(例:サムスン電子)は、チップ間ギャップを7µmレベルまで圧縮すると同時に、チップ反りやボイド(Void)を厳密に管理することを求めている。これにより、非導電フィルム製品は、超薄型化(10〜25µm)、高平坦性(膜厚ばらつき<1µm)、および高熱伝導性(パッケージ熱抵抗の低減)を同時に実現する方向へと継続的な高度化を迫られ、技術革新の加速と製品付加価値の向上を直接的に牽引している。
2. 日本本土材料大手による技術主導力と市場支配力:日本企業であるResonac(旧・日立化成)は、半導体HBM用非導電フィルムの世界市場において40%超のシェアを占め、明確な技術的・商業的主導地位を確立している。この競争優位は、長年にわたる特許戦略や顧客関係の蓄積のみならず、HBM3Eにおける低誘電損失(誘電正接tanδ ≤ 0.005)といった最先端顧客ニーズに迅速に対応できるカスタマイズ開発能力に起因している。こうした供給側の強固な産業基盤が、日本市場における最も重要な構造的成長ドライバーとなっている。
3. 熱圧着非導電フィルム(TC-NCF)技術ルートの継続的高度化:サムスン電子は、12層HBM3Eの量産において熱圧着非導電フィルム(TC-NCF)技術を採用しており、本技術は異なるサイズのバンプをチップ間で使用することを可能にし、信号伝送および放熱の最適化に寄与している。この主流技術ルートの量産実績は、半導体HBM封装における非導電フィルムの不可欠性を再確認させるものであり、日本の材料メーカー(Resonac、東レ等)に対して、粘度制御、フラックス成分設計、接合信頼性向上といったTC-NCF周辺技術への集中的な研究開発の方向性を明確に示している。
4. 「メモリウォール」突破に対する業界共通認識の高まり:AI計算においては、プロセッサとメモリ間の速度差によって生じる「メモリウォール」が計算性能発揮の大きな制約要因となっている。半導体HBMは、3D積層およびTSV技術を活用することで、このボトルネックを解消する主流ソリューションとして位置付けられている。非導電フィルムは、高密度かつ高信頼性の積層構造を実現するための“接合材料”として不可欠であり、メモリウォール問題の顕在化とともに、その戦略的重要性はチップ設計からシステムインテグレーションに至る産業全体で急速に高まっている。
5. 下流顧客の高度集中がもたらす大規模調達需要:HBMの世界生産能力は、サムスン電子、SK hynix、Micronの三社に高度に集中しており、合計で80%以上の市場シェアを占めている。このような顧客集中構造の下では、いったん認証を取得し、サプライチェーンに組み込まれた半導体HBM用非導電フィルム製品は、長期かつ大規模な安定調達需要に直結する。「勝者総取り」の市場構造は、日本の先進材料メーカーが継続的に研究開発投資を行い、技術力と品質優位を維持する最大の商業的インセンティブとなっている。
機会:
1. HBM4および次世代製品への移行がもたらす材料更新の好機:業界では次世代HBM4の開発が進行しており、2025年頃のサンプル投入が見込まれている。HBM4では、ウエハ・ツー・ウエハ(W2W)接合など、より高度なプロセスの採用が想定されており、封装材料には前例のないレベルの均一性、純度、接合強度が要求される。精密化学および薄膜技術に強みを持つ日本の非導電フィルムメーカーにとって、次世代標準を定義し、技術的主導権を確立する絶好の機会となる。
2. エポキシ樹脂系から高性能材料体系への進化機会:将来の封装では、300℃超の長期耐熱性およびさらなる高信頼性が求められることから、ポリイミド(PI)系非導電フィルムなどの新材料体系が研究開発の焦点となっている。東レをはじめとする日本企業は、既にポリイミド系熱硬化型フィルム接着剤分野で技術基盤を構築している。従来のエポキシ樹脂系から高機能材料への移行は、単なる技術革新にとどまらず、製品価値および利益率の大幅な向上をもたらす戦略的機会である。
3. 先端封装装置との協調イノベーションによるエコシステム構築機会:非導電フィルムの塗布精度は、封装品質を左右する決定的要因である。HBM4対応では、塗布精度を従来の±3µmから±1µm以内へと引き上げることが求められている。東レはレーザー干渉を用いた塗布技術を開発し、膜厚均一性を±0.5µmまで制御可能としている。材料メーカーと装置メーカーが深く連携し、プロセス標準を共同で定義するモデルは、極めて高い参入障壁と持続的競争優位を形成する。
4. 車載HBMおよびエッジAI分野への市場拡張機会:自動運転およびエッジAIの普及に伴い、車載用チップや端末機器においても高帯域・低消費電力メモリへの需要が急増している。これにより、車載グレードHBMまたは類似高帯域メモリの採用が進み、非導電フィルムにはAEC-Q100等に準拠した高耐熱・高信頼性が求められる。早期に対応製品を開発し、認証を取得した非導電フィルムは、新たな高付加価値成長市場を獲得できる。
5. MR-MUF技術競争下における差別化および融合の機会:サムスンが導入したMR-MUF(Mass Reflow Molded Underfill)技術は、放熱効率の高さから従来の非導電フィルム技術に競争圧力を与えている。しかし同時に、これは非導電フィルムが克服すべき進化方向を明確に示すものでもある。ナノ改質シリカ等の高熱伝導フィラーの導入や熱界面設計の最適化により、非導電フィルム自体の性能を飛躍的に高める、あるいはNCFとMUFの融合的応用を模索することが、重要な差別化戦略となる。
制約する要因:
1. 代替封装技術(MR-MUF)からの直接的競争圧力:前述の通り、サムスンが量産導入したMR-MUF技術は、液状材料の注入によって放熱性および積層時の圧力低減に優位性を示し、HBM3製品で実績を上げている。このような技術ルートの転換は、従来の熱圧着非導電フィルムの市場主導地位に対する最も現実的かつ深刻な脅威であり、日本の非導電フィルム産業が正面から向き合うべき最大の課題である。
2. 材料性能の限界とプロセス要求との根本的矛盾:HBMの高積層化およびギャップ縮小により、非導電フィルムにはさらなる薄型化と高流動性が求められる一方で、機械強度、接合信頼性、誘電特性を犠牲にすることは許されない。例えば、過度な薄型化は流平性の制御困難や銅バンプとの界面接合強度低下を引き起こす可能性がある。この材料物理学上のトレードオフは、技術進化のたびに高い研究リスクとプロセス調整負荷を伴う。
3. 技術進化スピードと資本投入負担の不均衡リスク:HBM技術の世代交代は極めて速く、HBM3EからHBM4への移行期間は2〜3年程度に過ぎない可能性がある。非導電フィルム材料はこれに同期、あるいは先行して開発される必要があり、そのためには莫大な研究開発費および設備投資が不可欠となる。技術ルートの見誤りや開発遅延が発生した場合、製品ライフサイクル全体を逃すリスクがあり、企業にとって財務的・戦略的負担は極めて大きい。
この記事は、QYResearch が発行したレポート「半導体HBM用非導電フィルム―グローバル市場シェアとランキング、全体の売上と需要予測、2026~2032」
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https://www.qyresearch.co.jp/reports/1627285/non-conductive-film-for-semiconductor--hbm
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